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特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律

通称「デジタルプラットフォーム取引透明化法」(以下「透明化法」といいます。)が,令和2年5月27日に成立し,令和3年2月1日に施行されました。これにより巨大IT企業に対する新たな規制が始まることになるので,今回はこの透明化法について,説明していきたいと思います。

 

1.対象について

透明化法は,すべてのデジタルプラットフォームを対象としているわけではなく,特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し(法4条),規律の対象とするとしています。[1]

施行時に「特定デジタルプラットフォーム提供者」として政令で定められたのは,以下の①②となります。

 

①物販総合オンラインモール

前年度3000億円以上の国内売上額

 

②アプリストア

前年度2000億円以上の国内売上額

※施行時の①②に加え,ネット広告事業も対象となることが3月にも正式決定されます。[2]

 

国内売上額とは,年度(4月1日から翌年3月31日までの期間をいう。)における次の額の合計額で判断されます。

 

①の場合

イ 商品等提供利用者による商品等の提供(当該事業に係る場におけるものに限る。ロにおいて同じ。)に係る国内売上額の合計額

ロ デジタルプラットフォーム提供者による一般利用者に対する商品等の提供の事業(商品等提供利用者が提供する商品の破損が生じた場合において当該商品の修理に要する費用を負担する事業その他のデジタルプラットフォームの提供と一体として行う事業として経済産業省令で定める事業を除く。)に係る国内売上額

 

②の場合

イ 商品等提供利用者によるソフトウェアの提供及び権利の販売(当該事業に係る場(ロにおいて単に「場」という。)におけるものに限る。ロにおいて同じ。)に係る国内売上額の合計額

ロ デジタルプラットフォーム提供者による一般利用者に対するソフトウェアの提供及び権利の販売の事業(場を提供するソフトウェアを提供する事業その他のデジタルプラットフォームの提供と一体として行う事業として経済産業省令で定める事業を除く。)に係る国内売上額

 

2.特定デジタルプラットフォーム提供者の役割について

⑴ 特定デジタルプラットフォーム提供者には,⓵提供条件として開示すべき事項(法5条2項)と②特定の行為を行う場合の開示事項(法5条3項4項)の開示が義務付けられています。

 

ア ①提供条件として開示すべき事項(法5条2項)

(ア) ①提供条件として開示すべき事項には,商品等提供利用者に対する開示と一般利用者に対する開示があります。

 

(イ) 商品等提供利用者とは,「デジタルプラットフォームを商品等を提供する目的で利用する者」です(法2条3項)。

商品等提供利用者に対しては,以下の事項の開示が義務付けられています。

 

(ウ) 一般利用者とは,「商品等提供利用者以外の利用者」です(法2条4項)。

一般利用者に対しては,以下の事項の開示が義務付けられています。

 

イ ②特定の行為を行う場合の開示事項(法5条3項4項)

②特定の行為を行う場合の開示事項には,都度開示(同条3項)と事前開示(同条4項)があります。

 

(ア) 都度開示

以下の行為を行うときに開示が義務付けられている事項は次のとおりです。

 

(イ) 事前開示

以下の行為を行うときに開示が義務付けられている事項は次のとおりです。

 

⑵ 相互理解の促進を図るために必要な措置の実施

特定デジタルプラットフォーム提供者は,商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために必要な措置を講じなければならないとされています(法7条1項)。

そして,相互理解の促進を図るために必要な措置に関し,経済産業大臣は,指針を定めるものとされ,次の事項を定めるものとするとされています(法7条2項,3項)。

 

 

⑶ モニタリング・レビュー(法9条)

ア 特定デジタルプラットフォーム提供者は,毎年度,以下の事項を記載した報告書を経済産業大臣に提出しなければなりません。

 

イ 経済産業大臣は,上記の報告を受けたときは,あらかじめ総務大臣と協議した上,特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価を行うものとするとされ(法9条2項),その評価は,報告書とともに公表しなければならないとされています(法9条5項)。

 

3.行政庁の役割

経済産業大臣は,特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性を阻害する行為があり,その事実が独禁法第19条に違反していると認めるときは,公正取引委員会に対し,措置請求ができるとされています(法13条)。

 

4.行政措置・罰則

経済産業大臣は,2⑴の開示義務を遵守していないと認めるときは,勧告することができるとされており,特定デジタルプラットフォーム提供者が,正当な理由なく,勧告に従わない場合には,措置命令ができるとされています(法6条1項,4項)。当該措置命令に従わない場合には,100万円以下の罰金とされています(法23条)。

また,2⑶等について,提出しなかったり,虚偽報告をした場合には,50万円以下の罰金とされています(法24条)。

 

 

以上のように,透明化法は,デジタルプラットフォームにおける取引の透明性と公正性の向上を図るために,取引条件等の情報の開示,運営における公正性確保,運営状況の報告と評価・評価結果の公表等の必要な措置を講じています。このような動きは,すでに欧州で先行して行われています。透明化法により,利用者の保護を図りつつもイノベーションが阻害されることを防止できるのかや透明化法の実効性をどのように持たせるのか等,これからの動きにも注視していく必要があります。

 

[1] 経済産業省「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律のポイント(2020年5月27日成立、2020年6月3日公布)」(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digitalplatform/transparency.html

[2] 日経新聞2021/2/21(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF19CLI0Z10C21A2000000/

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